大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)3671号 判決
一 本件意匠権の存在とイ号ないしナ号物品の製造・販売について
1 原告石田がかつて本件意匠権とその類似意匠一、二を有していたところ、昭和五六年二月二五日原告会社に右意匠権の移転登録をしたことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証によれば、原告石田は昭和五五年一二月一日原告会社に右意匠権を譲渡したことが認められる。
2 被告吉田工業がイ号ないしチ号物品を業として製造・販売し、被告東日本フアスナー、被告芙蓉フアスナー、被告大阪フアスナー、被告西部フアスナー及び被告地球商事がこれを被告吉田工業から買受けて業として販売していること、被告カラーフアスナーがリ号ないしソ号物品を業として製造・販売し、被告モリトがこれを被告カラーフアスナーから買受けて業として販売していること、被告三星産業がツ号、ネ号物品を業として製造・販売し、被告協和チヤツクがナ号物品を業として製造・販売していることは、当事者間に争いがない。
二 本件意匠、被告らの意匠の構成について
1 本件意匠の構成
(一) 成立に争いのない甲第一号証の二、三、甲第四号証の二によれば、本件意匠とその類似意匠一、二の意匠公報には、意匠に係る物品としてスライドフアスナーと記載されているが、右各意匠公報図面にはスライダー及び上下の止具の記載がなく、単にフアスナー本体しか記載されていないので、本件意匠に係る物品はフアスナー本体(被告吉田工業らのいうスライドフアスナー用チエーンに同じ)のみであると認めざるを得ない。
よつて、被告吉田工業らのイ号ないしチ号物品の意匠につき、フアスナー本体(同被告らのいうスライドフアスナー用チエーン)のそれとのみ対比すべき旨の主張は理由がある。
一方被告カラーフアスナーらは、右本件意匠権がフアスナー本体のみを対象とするところ、リ号ないしソ号及びナ号各物品は上下の止具、スライダーを含むことによつて、物品としても異り且つその意匠観は全く異るものとなるので、これらについては本件意匠との類否を検討する余地もない旨主張する。しかしながら、スライドフアスナーが使用に供せられるときにはフアスナー本体に止具及びスライダーが付けられるものであつても、フアスナー本体だけでも取引の対象となり得る独立性を有する物と認められ(ツ号、ネ号物品の例)、それゆえに本件意匠権もそれを対象として付与されたのであるから、フアスナー本体に止具とスライダーを付し完成したスライドフアスナーとして製造販売された場合であつても、止具とスライダーを除くフアスナー本体部分において登録意匠と同一又は類似のフアスナー本体が用いられていれば、右スライドフアスナーの製造販売は該意匠権を侵害するものというを妨げないし、その意匠の対比は止具及びスライダーを除くフアスナー本体部分についてのみ行えば足り、又、これを除いて行うことは可能である。右被告らの主張は理由がない。
(二) 次に本件意匠の構成については、原告らの見解(請求原因2項)と被告らの見解(被告吉田工業らの認否及び反論6項中「要部」と指摘するところ。被告カラーフアスナーらの認否及び反論5項)とは、相互にその視点を異にするため、その分説対応関係も整合していないので、当裁判所は本件意匠公報・同類似意匠公報(前記甲第一号証の二、三、甲第四号証の二)を客観的に総合観察した結果、本件意匠の構成は次のとおりに分説するのを相当と認める。これを別紙第五図面に基づき説明すると、次のとおりである。
(1) スライドフアスナー本体は、左右一対のエレメント1、1がそれぞれ交互に噛み合つた変形コイル状に形成され、このコイル状エレメント1、1が左右一対のテープ8、8の対向縁9、9寄りの表面に縫糸5、5によつて縫着されている。
(2) エレメント1は、噛合頭部2、上脚部4、下脚部、4及び反転部3からなり、変形したコイル状に形成されていて、エレメントの噛合頭部2がテープの対向縁9から突出する形状を有している。
(3) 正面側からみると、左右一対の平行な縫糸5、5がエレメントの上脚部4、4上を縦断し、一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aにおいてはエレメントが互いに重なり合い、一対の縫糸5、5の外側においてはエレメントのU字状反転部3、3が縦列状に配列されている。
(4) 側面からみると、エレメント1は、その反転部3が、テープ8の表面に沿いつつかつテープ8の表面に対して斜めになるようにして次のエレメントに重なる形状を有している。
(5) 背面側からみると、テープの対向縁9、9の線とエレメント縫着用縫糸目5、5(各一列)が、テープの外側縁10、10の線に平行な線として現われる。
(6) 一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aにおいては、噛合頭部2の先端まで均一な太さで緩やかな曲線を描く細棒状のエレメントが互いに噛み合つた状態で多数縦列状に配列され、左右それぞれのエレメントの噛合頭部2、2の先端とこれに対向する縫糸5、5との間に、中央部Aの長さのいずれも約三分の一に及ぶ空隙α、αが左右交互に縦列状に配されており、左右のエレメントが噛み合う噛合部Bの長さは中央部Aの長さの約三分の一弱にすぎない。
(7) 正面側からみると、縫糸5、5の幅が極端に狭くかつ反転部3側に偏つて配されているため、一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aの幅が非常に広く、エレメント全体Cの幅の約六割を占める。
(8) 正面側からみると、幅が非常に広い中央部Aが左右エレメントの噛合部Bを最高面として山形をなし、幅が極端に狭い縫糸5、5がその山形の両裾部に低く配されているので、中央部Aが前面に顕著に現われ、縫糸5、5はほとんど目立たない。
(9) 背面側からみると、テープの対向縁9、9の間には隙間がない。
2 吉田工業らの意匠の構成
(一) イ号ないしチ号物品であることに争いのない検甲第一号証の三ないし五、八ないし一二によれば、正面側から肉眼で観察して、イ号、ハ号、チ号物品はエレメントの噛合頭部付近が膨出していることが認められるが、ロ号、ニ号ないしト号物品については、右噛合頭部付近が膨出している形状が認められないのに、別紙第一の2、4ないし7の各(二)図面には右噛合頭部付近が膨出して描かれていること、ロ号物品は左右のエレメントの噛合頭部の先端が対向する縫糸と接触していないのに、別紙一の2の(二)図面の正面図には右噛合頭部の先端が縫糸と接触しているかのように描かれていること、以上の二点を除けば、別紙第一の1ないし8の各(二)図面は、イ号ないしチ号物品の形状がほぼ正確に描かれた図面であることが認められる。
原告らは、別紙第一の2の(二)図面の正面図には、左右のエレメントの縫糸よりも外側の部分が縫糸によつてほとんど覆い隠されて描かれている点が誤りであると主張するが、前記検甲第一号証の四によれば、ロ号物品は、正面側からみると、左右のエレメントの縫糸よりも外側の部分が縫糸によつてほとんど覆い隠されていることが認められ、右図面には誤りがない。
原告らは、別紙第一の7の(二)図面の背面図には、左右のテープの対向縁の間にエレメントの噛合部が露出しているように描かれている点が誤りであると主張するが、前記検甲第一号証の一一によれば、ト号物品は、背面側からみると、左右のテープの対向縁の間にエレメントの噛合頭部が露出していることが認められ、この点についても右図面には誤りがない。
(二) イ号ないしチ号物品である前記検甲第一号証の三ないし五、八ないし一二、前記(一)で誤りと指摘した点以外は、イ号ないしチ号物品の形状をほぼ正確に描いた図面であることが認められる別紙第一の1ないし8の各(二)図面によれば、イ号ないしチ号意匠のうちのフアスナー本体の意匠の構成は、別紙第六図面(但し同図面は右各意匠の構成を正確な表現方法で描いた図面ではない)に基づいて説明すると、次のとおりであることが認められる。
(1) フアスナー本体は、左右一対のエレメント1、1がそれぞれ交互に噛み合つた変形コイル状に形成され、このコイル状エレメント1、1が左右一対のテープ8、8の対向縁9、9寄りの表面に縫糸5、5によつて縫着されている。
(2) エレメント1は、噛合頭部2、上脚部4、下脚部4´及び反転部3からなり、変形したコイル状に形成されていて、エレメントの噛合頭部2がテープの対向縁9から突出する形状を有している。
(3) 正面側からみると、左右一対の平行な縫糸5、5がエレメントの上脚部4、4´上を縦断し、一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aにおいてはエレメントが互いに重なり合い、一対の縫糸5、5の外側においてはエレメントのU字状反転部3、3が縦列状に配列されている。
(4) 側面からみると、エレメント1は、その反転部3が、テープ8の表面に沿いつつかつテープ8の表面に対して斜めになるようにして次のエレメントに重なる形状を有している。
(5) 背面側からみると、テープの対向縁9、9の線とエレメント縫着用縫糸目5、5(イ号ないしニ号意匠は各一列、ホ号ないしチ号意匠は各二列)が、テープの外側縁10、10の線に平行な線として現われる。
(6) 一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aにおいては、直線状で平行な細棒状のエレメント(イ号、ハ号、チ号意匠についてはエレメントの噛合頭部2付近が膨出し、ロ号、ニ号ないしト号意匠については噛合頭部2の先端まで均一な太さである)が互いに噛み合つた状態で多数縦列状に配列され、左右それぞれのエレメントの噛合頭部2、2の先端とこれに対向する縫糸5、5とはほとんど接触しているか少ししか離れていないので、噛合頭部2、2の先端とこれに対向する縫糸5、5との間には空隙αがほとんどないか少ししか認められず、左右のエレメントが噛み合う噛合部Bの長さは中央部Aの長さとほとんど等しいか少し短かいだけである。
(7) 正面側からみると、縫糸5、5の幅が広く、しかも縫糸5、5がエレメントの噛合頭部2、2の先端とほとんど接触しているか少ししか離れていないので、一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aの幅が狭く、エレメント全体Cの幅に対して占める割合が少ない。
(8) 正面側からみると、エレメントの最高面は噛合頭部2よりやや反転部3寄りに存し、しかも縫糸5、5はエレメントの最高面より突出して幅広く畦状に通つているから、縫糸5、5が前面に顕著に現われ、左右の縫糸5、5に挟まれた中央部Aはむしろ控え目に現われている。
(9) 背面側からみると、テープの対向縁9、9の間に隙間があり、その隙間をとおして左右のエレメント1、1が連続しているのがみえる。
(10) ハ号ないしチ号意匠では、正面側ないしやや側面寄りからみると、コイル状エレメント1、1の内部に芯紐13が全長にわたつて貫通している状況が、エレメント1、1の隙間をとおして観察できる。
3 カラーフアスナーらの意匠の構成
(一) 別紙第二の1ないし10図面、同第三の1、2図面、同第四の1図面は、リ号ないしナ号物品の形状を描いた図面であることについて、被告カラーフアスナーらは認めている。
しかし、弁論の全趣旨によりリ号ないしソ号、ナ号物品であることが認められる検甲第二号証の三ないし一二、検甲第四号証の一によれば、ヨ号、ソ号、ナ号物品については、正面側から肉眼でみて、エレメントの噛合頭部付近が膨出している形状が認められるのに、別紙第二の7、10図面、同第四の1図面の正面図では、エレメントの形状が噛合頭部先端まで均一な太さに描かれていること、リ号ないしワ号、ヨ号物品は、正面側からみて、エレメントの噛合頭部の先端は対向する縫糸と接触しているかほとんど接触するほどに少ししか離れていないのに、別紙第二の1ないし5、7図面の正面図では、エレメントの噛合頭部の先端は対向する縫糸とかなり離れているように描かれていること、リ号、ヌ号、ワ号ないしソ号物品は、左右一対の縫糸で挟まれたエレメントの中央部の幅が特に狭いのに、別紙第二の1、2、5ないし10図面では、右中央部の幅が特に狭いようには描かれていないこと、以上の三点については、右各図面は右各物品の形状を客観的に正しく表示したものではないことが認められる。
(二) リ号ないしソ号物品である前記検甲第二号証の三ないし一二、ナ号物品である前記検甲第四号証の一、弁論の全趣旨によりツ号、ネ号物品であることが認められる検甲第三号証の三ないし三五、右検甲号各証により、前記(一)で誤りと指摘した点以外は、リ号ないしナ号物品の形状をほぼ正確に描いた図面であることが認められる別紙第二の1ないし10図面、同第三の1、2図面、同第四の1図面によれば、リ号ないしソ号、ナ号意匠のうちのフアスナー本体の意匠、ツ号、ネ号意匠の構成は、別紙第七図面(但し同図面は右各意匠の構成を正確な表現方法で描いた図面ではない)に基づいて説明すると、次のとおりであることが認められる。
(1) 吉田工業らの意匠の構成(1)と同じ。
(2) 同(2)と同じ。
(3) 同(3)と同じ。
(4) 同(4)と同じ。
(5) 背面側からみると、テープの対向縁9、9の線とエレメント縫着用縫糸目5、5(リ号ないしワ号、ヨ号、ツ号意匠は各一列、カ号、タ号ないしソ号、ネ号、ナ号意匠は各二列)が、テープの外側縁10、10の線に平行な線として現われる。
(6) 一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aにおいては、直線状で平行な細棒状のエレメント(ヨ号、ソ号、ナ号意匠についてはエレメントの噛合頭部2付近が膨出し、リ号ないしカ号、タ号、レ号、ツ号、ネ号意匠では噛合頭部2の先端まで均一な太さである)が互いに噛み合つた状態で多数縦列状に配列され、左右それぞれのエレメントの噛合頭部2、2の先端とこれに対向する縫糸5、5とは接触しているかほとんど接触するほどに少ししか離れていないので、噛合頭部2、2の先端とこれに対向する縫糸5、5との間には空隙αがないかほとんどなく、左右のエレメントが噛み合う噛合部Bの長さは中央部Aの長さと等しいかほとんど等しい。
(7) 正面側からみると、縫糸5、5の幅が広く(なかでもカ号、タ号ないしソ号、ナ号意匠は特に広い)、しかも縫糸5、5がエレメントの噛合頭部2、2の先端と接触しているかほとんど接触するほどに少ししか離れていないので、一対の縫糸5、5で挟まれている中央部Aの幅が狭く(なかでもリ号、ヌ号、ワ号ないしソ号意匠は特に狭い)、エレメント全体Cの幅に対して占める割合が少ない(なかでも前記各意匠は特に少ない)。
(8) 正面側からみると、エレメントの最高面は噛合頭部2よりやや反転部3寄りに存し、しかも縫糸5、5はエレメントの最高面より突出(なかでもリ号、ヌ号、ワ号、ヨ号、レ号、ソ号意匠は特に突出して盛り上つている)して、幅広く(なかでもカ号、タ号ないしソ号、ナ号意匠は特に広い)畦状に通つているから、縫糸5、5が前面に顕著に現われ(なかでもリ号、ヌ号、ワ号ないしソ号、ナ号意匠は特に顕著)、左右の縫糸5、5に挟まれた中央部Aはむしろ控え目に現われている(なかでも前記各意匠の中央部Aはとりわけ目立たない)。
(9) 背面側からみると、テープの対向縁9、9の間に隙間があり、その隙間をとおして左右のエレメント1、1が連続しているのがみえる。
(10) ネ号意匠では、正面側ないしやや側面寄りからみると、コイル状エレメント1、1の内部に芯紐13が全長にわたつて貫通している状況が、エレメント1、1の隙間をとおして観察できる。
三 被告らの意匠が本件意匠に類似するか否かについて
1 本件意匠と被告らの意匠との対比
(一) 本件意匠の構成(1)ないし(4)は、被告らの意匠の構成(1)ないし(4)と同一である。
(二) 本件意匠の構成(5)は、被告らの意匠の構成(5)と同一である(もつとも、本件意匠はエレメント縫着用縫糸目5、5が各一列なのに対して、ホ号ないしチ号、カ号、タ号ないしソ号、ネ号、ナ号意匠は右縫糸目5、5が各二列であり、この点は相違している)。
(三) 本件意匠の構成(6)ないし(9)は、被告らの意匠の構成(6)ないし(9)と相違している。
(四) ハ号ないしチ号、ネ号意匠には、本件意匠の構成にはない被告らの意匠の構成(10)が存在する。
2 本件意匠の要部
(一) 成立に争いのない乙第一、第二号証、丙第一ないし第六号証、及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠が出願された昭和三八年四月当時、被告吉田工業、被告カラーフアスナー(旧商号・東洋ナイロンフアスナー株式会社)は、変形コイル状エレメントを左右のテープに一対の平行な縫糸により縫着して形成したスライドフアスナー本体を、日本国内において公然かつ大量に製造・販売していたこと、本件意匠の構成(1)ないし(5)は右スライドフアスナー本体に通有の基本的構成部分であることが認められ、かかる基本的構成部分に意匠としての要部があるものとは認められない。
(二) 又、前記乙第一、第二号証によれば、乙一意匠、乙二考案が本件意匠出願前から公知であつたことが認められるが、乙一意匠、乙二考案の公報上の図面には本件意匠の構成(1)ないし(5)が示されていて、この点からしても、右各構成部分に意匠としての要部があるものとは認められない。
(三) そうだとすると、フアスナー本体の意匠において最も看者の目を引き易いのはその正面形状にあることから、本件意匠の要部は本件意匠の構成(6)ないし(8)にあるものというべきである。
3 本件意匠と被告らの意匠の類否判断
(一) 一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aのエレメントの形状が、本件意匠では、噛合頭部2の先端まで均一な太さで緩やかな曲線を描く細棒状である(本件意匠の構成(6)前段、別紙第五図面の(1)図参照)のに対し、イ号、ハ号、チ号、ヨ号、ソ号、ナ号意匠では、噛合頭部2付近が膨出した直線状の平行な細棒状であり、ロ号、ニ号ないしト号、リ号ないしカ号、タ号、レ号、ツ号、ネ号意匠では、噛合頭部2の先端まで均一な太さで直線状の平行な細棒状である(被告らの意匠の構成(6)前段、別紙第六図面(5)図、別紙第七図面(1)図参照)。
(二) 本件意匠では、正面側からみて、左右それぞれのエレメントの噛合頭部2、2の先端とこれに対向する縫糸5、5との間に、中央部Aの長さのいずれも約三分の一に及ぶ空隙α、αが左右交互に縦列状に配されており、左右のエレメントが噛み合う噛合部Bの長さは中央部Aの長さの約三分の一弱にすぎない(本件意匠の構成(6)後段、別紙第五図面の(1)図参照)のに対して、イ号ないしナ号意匠では、正面側からみて、左右それぞれのエレメントの噛合頭部2、2の先端とこれに対向する縫糸5、5とは接触しているかほとんど接触するほどに少ししか離れていないので、噛合頭部2、2の先端とこれに対向する縫糸5、5との間には空隙αがないかほとんどないか少ししか認められず、左右のエレメントが噛み合う噛合部Bの長さは中央部Aの長さと等しいかほとんど等しいか少し短かいだけである(被告らの意匠の構成(6)後段、別紙第六図面の(5)図、別紙第七図面の(1)図参照)。
(三) 本件意匠は、正面側からみると、縫糸5、5の幅が極端に狭くかつ反転部3側に偏つて配されているため、一対の縫糸5、5で挟まれた中央部Aの幅が非常に広く、この中央部Aの幅はエレメント全体Cの幅の約六割を占める(本件意匠の構成(7)、別紙第五図面の(1)図参照)のに対し、イ号ないしナ号意匠は、正面側からみると、縫糸5、5の幅が広く(なかでもカ号、タ号ないしソ号、ナ号意匠は特に広い)、しかも縫糸5、5がエレメントの噛合頭部2、2の先端と接触しているかほとんど接触するほどに少ししか離れていないので、中央部Aの幅が狭く(なかでもリ号、ヌ号、ワ号ないしソ号意匠は特に狭い)、エレメント全体Cの幅に対して占める割合が少ない(なかでも前記各意匠は特に少ない)(被告らの意匠の構成(7)、別紙第六図面の(5)図、別紙第七図面の(1)図参照)。
(四) 本件意匠は、正面側からみると、幅が非常に広い中央部Aが左右エレメントの噛合部Bを最高面として山形をなし、幅が極端に狭い縫糸5、5がその山形の両裾部に低く配されているので、中央部Aが前面に顕著に現われ、縫糸5、5はほとんど目立たない(本件意匠の構成(8)、別紙第五図面の(1)(3)(4)図参照)のに対し、イ号ないしナ号意匠は、正面側からみると、エレメントの最高面は噛合頭部2よりやや反転部3寄りに存し、しかも縫糸5、5はエレメントの最高面より突出(なかでもリ号、ヌ号、ワ号、ヨ号、レ号、ソ号意匠は特に突出して盛り上つている)して、幅広く(なかでもカ号、タ号ないしソ号、ナ号意匠は特に広い)畦状に通つているから、縫糸5、5が前面に顕著に現われ(なかでもリ号、ヌ号、ワ号ないしソ号、ナ号意匠は特に顕著)、左右の縫糸5、5で挟まれた中央部Aはとりわけ目立たない(被告らの意匠の構成(8)、別紙第六図面の(4)ないし(6)図、別紙第七図面の(1)(5)ないし(7)図参照)。
(五) 以上のとおり、本件意匠とイ号ないしナ号意匠のうちのフアスナー本体の意匠の外観を全体として観察して意匠の類否を判断するに、本件意匠の構成(1)ないし(5)と被告らの意匠の構成(1)ないし(5)は同一であるが、右同一の構成部分は、本件意匠の出願当時、日本国内において公然と実施されていた前記エレメントがコイル状に形成されたスライドフアスナー本体に通有の基本的構成部分であるから、ありふれた形状として看者の注意を引くことがないのに対して、前記(一)ないし(四)で説示したように、本件意匠の要部である本件意匠の構成(6)ないし(8)が被告らの意匠の構成(6)ないし(8)と著しく相違するので、イ号ないしナ号意匠のうちのフアスナー本体の意匠は看者に本件意匠とは全く異つた美感を与えるものというべく、本件意匠に類似しないものというべきである。
四 結論
よつて、原告らの本訴請求はその余の点につき判断するまでもなくいずれも理由がないので棄却する。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
1 本件意匠権の存在とその帰属について
原告石田は次の意匠権(うち本意匠権を「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という。)を有していたところ、これを昭和五五年一二月一日原告会社に譲渡し、昭和五六年二月二五日付で意匠権の移転登録がなされた。
(一) 本意匠権
意匠に係る物品 スライドフアスナー
出願日 昭和三八年四月二二日
登録日 昭和四一年八月二六日
登録番号 第二六二七八八号
登録意匠 別紙意匠公報(一)記載のとおり(但しそこに付された数字及び欧文字の符号は原告らが後記2の説明のため付したものである)
(二) 右類似意匠一
意匠に係る物品 スライドフアスナー
出願日 昭和三八年四月二二日
登録日 昭和四一年一〇月二六日
登録番号 第二六二七八八号の類似一
登録意匠 別紙意匠公報(二)記載のとおり(符号について前同)
(三) 右類似意匠二
意匠に係る物品 スライドフアスナー
出願日 昭和三八年四月二二日
登録日 昭和四一年一〇月二六日
登録番号 第二六二七八八号の類似二
登録意匠 別紙意匠公報(三)記載のとおり(符号について前同)